フルハーネスや足場の特別教育を開催する中で、安全靴の使用義務と支給義務・個人負担についてご質問頂くことが多々ありましたので論点をまとめます。

この論点を考えるときには、まず使用義務と支給義務を分けて考える必要があります。

事業者に対しての労働者への使用義務と支給義務については、労働安全衛生規則第558条1項に記載があり、労働者の安全靴の使用義務については、労働安全衛生規則第558条2項に記載があります。

労働安全衛生規則 第五百五十八条 
事業者は、作業中の労働者に、通路等の構造又は当該作業の状態に応じて、安全靴又はその他の適当な履物を定め、当該履物を使用させなければならない。
2.労働者は、定められた履き物の使用を命じられたときは、当該履き物を使用しなければならない。

まず使用義務について考えますと、
法令条文では、「こういう作業環境では安全靴を履きなさい」といった具体的な状況を定めておらず、「事業者は、危険が予見される業務であれば、事故防止の為に労働者に安全靴を履かせる事」と定めています。

つまり、「照明器具等の重量物を扱う作業や、台車などの運搬作業のように、足先に危険が生じる場合・滑りやすい作業には安全靴を履かなければいけない」といった社内ルールを事業者が決め、労働者にきちんと履かせる事までが義務であり、「労働者は決められた社内ルールを遵守する」という事、が法で定められています。

ですので、事業者が違えば安全靴の着用ルールも異なりますので、似たような照明業務を行っていたとしても、「A社では安全靴の着用義務は無い」「B社では着用義務がある」という事が発生しますが法的に問題ありません。

法的に問題ありませんが、労災事故が発生した際に、司法行政から事業者が問われる責任については、以下の3例のように大きく変わります。

「A社では安全靴の着用義務がないので運動靴で作業を行っていたが、作業中に鉄台車が足に乗り上げ粉砕骨折した」といったケースでは事業者の安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

「B社では安全靴の着用ルールがあり労働者には安全靴の着用義務があるので、会社側も現場のチーフも日頃から注意喚起と現場指導を行っているが、そのルールを守らず運動靴で業務を行っていた労働者の足の甲に照明機材が落ちて骨折した」といった場合には、労働者側が安全靴の着用義務を怠ったことが問われます。

「C社では安全靴の着用ルールがあり労働者には安全靴の着用義務があるが、会社側も現場のチーフも日頃から注意喚起と現場指導を行っておらず、運動靴で業務を行っていた労働者の足の甲に照明機材が落ちて骨折した」といった場合には、労働者側が安全靴の着用義務を怠ったことは当然問われますが、事業者側も適切な注意喚起と現場指導を怠った安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

事業者には「社内ルールを決めるだけでなく、きちんと着用させることまで」が安全配慮義務として求められます。安全靴の着用ルールを決めていても、労働者が履いていないことを黙認していれば、事業者の安全配慮義務違反と判断されてしまうこともあります。

使用義務については、照明業務の倉庫作業、会場での設営撤去作業の実態を考えますと、
「事業者は社内ルールを作り安全靴の使用を義務付けて労働者に使用させ、かつ労働者が適切に使用しているか事業者が監督・指導する事」とした方が良いのでは?と考えます。

次に支給義務ですが、原則的に業務で使用する安全器具などは基本的に会社が負担しなければなりません。

ただし、ヘルメットやハーネスと違い、安全靴に関しては、後述の条件満たしている場合に限定してですが、個人負担をして頂く事も法的に可能となります。

労働基準法第89条では就業規則に『合理的な労働条件』を定めなければいけないとあり、第89条5項に基づく労働者の費用負担に関して『合理的な労働条件』が盛り込まれた就業規則を労働基準監督署が受理した場合は、労働者の自己負担とさせることが可能となります。

労働基準法第89条
(作成及び届出の義務)
5. 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項

結論から書きますと、安全靴の場合は認められるケースが多いようです。
「使用義務なら会社負担での支給が当然ではないか?」という声が労働者から上がるかとは思いますが、

・業務終了後に履いたまま私的時間を過ごす事も可能である(私的利用可能)
・雇用期間終了後に他の職場で利用する事もできる。
・退職時に返還させても、履物という製品の性質上、安全衛生的に他の労働者に再貸与する事は難しい。

といった合理的な理由が安全靴には明確にありますので、労働者の自己負担という事は問題ない判断だと思います。

勿論、会社負担で労働者に貸与する事は問題ありませんが、靴ですから個人の足の形に合わせて変化しますし、水虫等の足の病気なども考えると、退職時に返還させても安全衛生法上、他の労働者への再貸与は難しいと思いますので、廃棄しなければいけないとなると、そのコストもかかります。適切な貸し出しルールの作成と運用は難しいと思います。

ヘルメットやハーネスを個人負担にすることは合理的な理由が無いので出来ませんが、安全靴が個人負担に出来るのは合理的な理由があるからです。
実際に建設業や製造業でも安全靴は個人負担にするケースが多いようです。

ですが、安全靴には様々な種類がありますので、何を使ってもいいわけではありません。
労働安全衛生規則第558条1項に「構造又は当該作業の状態に応じて」と記述がありますので、状況に応じた安全靴を使用しなければ違反となります。

企業負担にせよ、個人負担にせよ、購入して使用する安全靴の種類を社内ルールで決める必要があります。

我が国においては、「危険度の高い作業では「JIS規格」、危険度の低い軽作業には「JSAA規格」を使用する事が望ましい」とされています。

「JIS規格(日本工業規格)」は、国家規格であり各種の安全規定が定められていますので、「JSAA規格」に比べて1.5倍以上の強靱さがあるとされています。「JSAA規格(日本保安用品協会)」は(公社)日本保安用品協会が定めた安全性や耐久性の認定を満たしているスニーカータイプの安全靴で、素材に自由度があるので動きやすくJIS規格ほどの強靱さを求めない場合に使用します。

ほとんどの現場では、どちらかの規格の安全靴を着用していれば大丈夫ですが、安全面に厳しく指定されている会場ではJIS規格の安全靴着用を指示されることもあります。
市場には規格に通っていない安全靴も多数流通していますが、安全性が低い安全靴を使って労災事故にあった場合は責任を問われることもあります。

現在全照協では、フルハーネスを廉価で仕入れさせて頂いてます(株)谷沢製作所様と、安全靴も廉価で仕入れて皆様に紹介できないか商談をしております。
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安全靴の使用義務と支給義務・個人負担について総括いたしますと、

「使用義務については、照明業務の実態考えると、安全靴の使用をするべきであると判断されるケースが多いと予見されるので、事業者は社内ルールを作り、安全靴の使用を義務付けて労働者に使用させ、かつ労働者が適切に使用しているか事業者が監督・指導する」

「安全靴の支給については、事業者負担でも良いが、就業規則に記載がある又は変更届が受理されれば個人負担でも問題は無い」

「安全靴は作業現場の構造又は当該作業の状態に応じて、適切な規格の商品を選ぶ必要がある」

と理解して頂く方が良いかもしれません。

特にコロナ禍において業務が減少しているなか、近い将来において業務が再開していく過程では、現場感が鈍くなっていますのでヒヤリハット的な事故が多くなることが予見されます。

会員企業様の顧問弁護士様、社会保険労務士様などともご相談の上、適切なご判断と運用をして頂き安全作業にお努め頂けますと幸いです。